2本のテナー・サックスとソヘグム(朝鮮半島の伝統弦楽器)をフィーチャーした高音圧なジャズ。端正なメロディが透明感を醸すヴォーカル曲。ソロ・ピアノによるクラシカルな小品。収録曲の多彩さが際だつ吉澤はじめさんの最新アルバムは『JAPAN』と名づけられた。
「ポッと浮かんじゃった言葉です。寛容な部分があり、世界中のいろんなものを取り入れる日本人はユニークだと思います。日本人だけでつくった音楽ではなくても、ちゃんと日本人の音楽として成立するし。和楽器や伝統的な音階を使わなくても、自分の中から日本的なものが出てくるんですよね」
80年代半ばにジャズ・ピアニストとしてキャリアをスタートさせた吉澤さんは90年代以降、クラブ・シーンを中心に活躍。DJ的な感覚でジャズを再構築、あるいはジャズに新たな要素を加え、同時代性の強い音楽をつくってきた。ファータイル・グラウンドのシンガー、ナヴァーシャ・デイヤが歌う「TIME」にはそうした経験が集約されている。音の厚みと色彩感が素晴らしく、バックがアコースティックなピアノ・トリオというシンプルな編成とは思えない。
「デザインされた音楽ということを意識してつくりました。打ち込みでやるようなことを実際に演奏しています。“ピアノ・トリオ+歌でこんなに面白いサウンドってありましたか?”っていうプレゼンテーションができたと思っています」
詩情豊かな「MAY」には叔父のピーター・アースキン(元ウェザー・リポートのドラマー)が参加。このときのトリオ演奏でベースを担当したデイヴ・カーペンターはレコーディング後、間もない今年6月24日に急逝している。
「僕とピーターが歯に衣着せぬやり取りをしてテンションが上がったりすると、“まあまあ”みたいな感じで緩和してくれました。もっといっしょに演奏をしたかったですね」
贈り物にしたい1曲は、キース・ジャレットの「My Song」を選んだ。
「歌が入っていない音楽を、あまり聴いたことがない人に。シンプルでポップ、さらに深くて暖かいメロディが素晴らしい。インスト・ミュージックの入門曲としてお薦めします」 |